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エリュシオンでささやいて
第10章 Changing Voice
 
 
「きみと長谷は不仲だと聞いていますが」

 そうそう、そうなのよ。
 須王本人がそう言っていたんだし、誰も聞いていないよ、そんなこと。

 ……決まったのだとしたら、きっと長谷耀がうちに来た時か。
 それについて後で聞いてみたけど、「後でな」とのらりくらり交わしていたというのに。

 須王はあたしに目を向ける。
 驚いたか? くらいの揶揄の視線を。

「まぁそうですが、ちょっと考えていることに彼も必要なので」

「わかった。私から長谷のプロダクションに声をかけよう」

「ありがとうございます。恐らく長谷も、既に動けるように社内で手を打っているはずなので、すんなりいくかと」

「ははは。既に動いていたのか。エリュシオンのハデスは。企画書は必ず出してくれよ。体裁だけは整えろ」

「わかりました」

 ……こう見ると、社長は須王をとても信頼しているようだ。
 須王の言葉をまるごと了承しているのは、なにも須王がエリュシオンに居るための取り決めだけのせいではないだろう。

「ではそういうことで。人数が少なくなったからと、仕事をしない社員は切り捨てる。二年も、私は見守ってきたのだ。今さら、なんの言い訳も聞かない」

 宮坂専務は、膿出しと言った。
 確かに、突然の登場を果たした社長の言動は、そうなのだろう。
 来たるべき、終末の日が来てしまっただけのことだと、思えばいいのだろう。

 だが、なにかひっかかる。
 そう……、育成課は棗くんらプロ集団に調べて貰って、ようやく情報が漏れていることを突き止めた。それをあたしと須王が会議室に呼び出し、反省を促したのだ。

 自省の結論としての辞職――育成課ならわかるが、他課はどうやって、情報流出組に辞職させたのだろう。
 この残る面子に、須王に匹敵するほど頭の切れそうな人間はいない。
 だとしたら、情報流出した者達が、良心の呵責に耐えかねて?
 
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