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エリュシオンでささやいて
第10章 Changing Voice
「つまり彼女だけ特殊だということですよね」
あたしが特殊?
なぜなのか。
「なぜ彼女だけ除外されているんですか?」
須王の問いに社長は笑った。
「彼女は裏切らない」
「そう思える根拠は?」
社長はあたしを見て言った。
「エリュシオンの唯一の生き残りだからだ」
……その言葉とは裏腹に、
「そして、上原家の娘だ」
彼の目はとても冷たかった。
「ご、ご存知でしたか」
思わずぶるりと身震いしてしまうほどに。
「ああ勿論。若い頃、何度かきみの家にも行ったからね」
「え?」
「……苦々しい記憶だ」
そう皮肉気に言った社長の顔に、なにか見覚えがあるような気がした。
遊んでくれたひと?
苦々しいということは、屈辱的なことでも社長はしてたの?
あたしには、あれが社長だと言い切れる明瞭な記憶がない。
須王が冷ややかな声を出した。
「今村部長が口にした辞意があるという社員、その辞表かなにかを社長自ら確認されましたか?」
「いいや。この件の終結は今村くんに一任している。私は数人に声をかけただけ。結果は今村くんが拾うことになっている」
そこに偽りがあるようには見えなかった。
……やはり今村部長しか、真実はわからない。
だから、一斉に辞意を表明することに無理があるように思えても、また、その確認方法からなにからも、今村部長の一存でどうとでもなる――。
今村部長の存在は怖い。
だから須王も警戒して、毎日いる部長ではなく社長に報告すると言ったのか。
「社長は牧田チーフが入院されていることはご存知で?」
須王も疑っている。牧田チーフを動かしたのが社長なら、なぜ牧田チーフはあの姿になったのかを。
「ああ。昨日の夜、報告を受けた」
「実際のところ、牧田チーフに声をかけましたか?」
「ああ。彼女は社員達と仲がいい。そこから切り崩しにかかった」
「では、なぜ入院しているのかはご存知で?」
「罪悪感からではないか? 肺炎になるほど消耗していたのなら」
「肺炎? 誰からお聞きに?」
社長はきょとんとした顔で言った。
「谷口さんからだが、なにか?」
谷口さんとは、美保ちゃんのことだ。
須王は面会謝絶で入院していると、総務と今村部長に告げた。
それを具体的に美保ちゃんが言えるのはなぜか。