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エリュシオンでささやいて
第10章 Changing Voice
 

 

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 あまり重役達を待たせるわけにもいかず、社長に挨拶をして早々に切り上げ、社長室に消える後ろ姿を見送る。

 推定五十代前半。
 エリュシオンには月に数度しか来ていないが、来る度に成金趣味になっている気がする。

 エリュシオンが彼に金を貢いでいるのなら、その要たる須王の危機を女帝から連絡を受けながらも放置していて、ようやく来たと思えば、なんだか今日は、裏切った社員を切り捨てる宣告をしにきたようなものに思えた。

 須王なら損失を補填出来る仕事を創り出すと信頼しているのはあるだろう。さらに現時点、プロジェクトで大金はそこまで使われていないし、悲惨な損失を出したわけでもないために、そこまで切羽詰まったような危機感を抱いていない、と言われれば、それも一理ある。
 会社が本当に傾く前に、疑わしい社員を切り捨てたというのも、おかしい理屈ではない。

 だけどなんだろう、このもやもや。
 
 須王も怜悧な目を細めて、社長の後ろ姿をじっと見ていた。
 そしてあたしを連れて受付に行く。

「谷口!」
「は、はい」

 いつになく荒い口調に、怯えた様子で美保ちゃんが返事をする。

「なぜ牧田のことを、社長に告げた」

「なぜって……受付は社長に報告するのが義務で……」

「新人が社長に勝手に連絡していいと、三芳が教えたのか?」

 女帝は病室で言っていた。

――美保がもし仮にどこかのスパイだとしたら、規律破って私がいない隙に好き勝手し始めるはずよ、これ幸いと。

 その通りだった。

――私、美保に社長に勝手に連絡するなと言ってあるし、私がいない間になにかあったのなら、どんなに緊急と思っても、まず私に連絡をしろと言ってあるわ。私が社長にいうべきかを判断すると。

 言わば女帝は秘書の長。
 彼女の判断を、須王も高く買っている。

「……社長は、牧田チーフと仲がよかったから、よかれと思って……」

 美保ちゃんはわなわなと唇を戦慄かせ、ぽろぽろと涙を零す。
 いわゆる、女の武器。

 男は女の涙に弱い……そう思っていたのならご愁傷様。
 そんなもので王様は揺らがない。
 
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