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エリュシオンでささやいて
第10章 Changing Voice
 

「誰から聞いた、肺炎だと。俺は体調不良で入院したと、総務と今村部長に言っている。それを、肺炎だと限定して社長に言った理由はなんだ」

「ええと……」

 美保ちゃんの涙で濡れた目が斜め上を向く。
 きっと言い訳を考えているのだろう

「誰だ」

「な、なぜそんなことを? ご存知なんですか、早瀬さん。牧田チーフの入院の理由」

「ああ。見舞いにいった俺と上原チーフが救急車の手配をした。牧田チーフは相当なぎっくり腰でな。恥ずかしいから黙っていてくれと頼まれた」

 ぎっくり腰……須王はにやりと笑った。

「まさかそれ、知らないで肺炎など虚偽の報告をしたのではねぇだろう?」

「し、知ってます! 私だってぎっくり腰だとメールでご本人から連絡がきましたし。早瀬先生と同じ理由で、病名は隠したかっただけなんですぅ!」

 ……美保ちゃん、ダウト。
 わかっていながら、須王は追い詰める。

「ほう、ではそれが実は捻挫で今日退院することになったことは?」

「え……し、知ってます! だから昨日のうちに社長に連絡を……」

「いつ連絡来たんだ?」

「昨日の夜……」

 須王は笑った。
 冷ややかな美しい顔を凶器にさせて。

「残念だったが、今のはすべて嘘だ」
 
「え……」

「ひとつ本当のことを言うとな、牧田は昨日の夕方にはいなくなっている。入院したのは、ぎっくり腰でもなければ体調不良でもねぇ。俺達はその場に居合わせた。どんな姿で救急車を呼ばなければならなかったか、詳しく説明してやろうか?」

 酷薄にも思える冷たい笑みに、じり、と美保ちゃんが後退る。

「気をつけろよ? お前も牧田のように、血痕を残して消える羽目になる。嘘つきは許されねぇからな」

「な、なにを……」

「妄語」

「モウゴ?」

「わからないならいい。だが、次は……お前の番かもな?」

「え……?」

「柘榴」
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