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エリュシオンでささやいて
第10章 Changing Voice
それから――。
会議と称して、小会議室に須王と入り、中から鍵をかける。
まずはもうクセのようになってしまった、棗くんから借りた小さな機械での、盗聴器ら怪しい器具がないかの探索。
ここは大丈夫そうだ。
「ねぇ、須王。妄語ってなに?」
脱力したままの美保ちゃんを思い出して、あたしは尋ねた。
「ああ、組織の掟で、妄語とは、でたらめなことや嘘を言うことだ」
「音楽ついている掟のこと?」
「ああ」
須王は、会議室に入る前に持ってきた、彼の席から……使っているのを見たことがないノート型パソコンを広げると、ポケットからなにかを取り出してUSBで接続した。そして胸ポケットからいつも車でかけている眼鏡を取り出してつけて、キーボードを叩き始めた。
完全お仕事モードだ。
「だが妄語の言葉は、谷口……きょとんとしていた。あいつが指示されていたのは、俺が知る掟があるエリュシオン関係ではなさそうだ。だが新生エリュシオンの実態を掴めねぇ限りは、無関係とも言い切れねぇ。現に谷口は、物騒な言葉には過敏に反応していた」
「柘榴……?」
あたしは、真っ青になった美保ちゃんを思い出す。
「須王がいた組織でも、柘榴に意味があったの?」
「あったが、意味は単純だ。組織の主に捧げる、血塗られた献上物といったところか。それは物でありひとであり、主が欲しいと言えば俺達はそれを捧げねばならねぇ。もし出来ねば、心臓を捧げることになる」
「なにそれ……」
「元々柘榴は、生きた心臓で象徴されていた。絶対なる忠誠と、血塗られたものとして」
「そういえば前に朝霞さんが柘榴の話をしていたよね?」
「ああ。朝霞の意味するところは、俺の知る組織の片鱗だ。朝霞が柘榴の話をしたのは、柘榴はお前だと言いたかったとみている」
「へ……」
「つまり組織の主がお前を所望している。そのために黒服や、レベルアップした狙撃犯も駆り出されている。昔通りなら、失敗したら命で償わねばならねぇ」