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エリュシオンでささやいて
第10章 Changing Voice
 

「え、でも黒服達は、いつも似たような姿でわらわらと現われるよね。死んでしまっても、また新たな黒服が増殖しているということ? 前も言ってたけど、天の奏音の信者というには、そっくりさんすぎる気はするけど」

「……ひとつ、俺と棗の間で仮説がある」

 須王は手を止めて、あたしを見た。

「俺と棗は子供ばかりの空間に入れられた。だが外で仕事をするには、大人の人間も必要だ。たまに大人と組まされることもある。だが俺達が寝泊まりしているところには、そんな黒服はいなかった。いつも別の場所から湧いていたんだ。掃いて捨てられるほどの下っ端要員が、ほぼ無限に」

「………」

「その頃は宗教なんてものはねぇ。だとすれば俺達を必要とした飼育者……スポンサー達は、大人をどこで調達していた?」

「大人って黒服だけ?」

「あぁ。性処理の女も、高値になるだろう未成年ばかりだった。だがもしかすれば、客に熟女マニアもいるかもしれねぇし、俺の知らないところで年寄りも集められていたかもしれねぇな」

 碧姉はもう三十路だ。
 どうか未成年だからいかがわしいことをさせられていたのであって欲しい。

「ただ子供は孤児ばかりだし、拉致も簡単にできるが、大人の……黒服世代の男は拉致するのもかなり手間がかかる。人の目もあるしな。帰らない人間がいるのなら、必ずどこかで騒ぎになる。権力で隠していなかったら、だが」

「確かに……。平和だよね」

「そこで俺達は考えた。……組織自体で、早く成長出来る大人を作っているのではないかと」

「待って、ちょっと待って。早く成長ってなに? あの黒服はいって三十代とみてる。つまりあの姿になるのに三十年かかっているのよ?」

「ああ。三十年経った姿が皆同じというのはおかしいだろう。組織に下る前は、それだけの同じ顔の奴らが社会に存在していたということになる。双子三つ子の話じゃねぇ、あれなら分裂だ。俺達の仲間に、黒服になりそうな同じ顔ばかりはいなかったしな」
 
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