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エリュシオンでささやいて
第10章 Changing Voice
「必ず子供は大人になるよね。年上の子とかはどうしたの?」
「いつの間にか消えていたな。あそこは大人になると身体能力が低下するため、扱いが酷くなる。殺されたか、うち捨てられたのかもしれねぇ。俺も棗も、死にたくないからとずっと生き延び続けていたら、最後には……」
翳った須王の顔。
組織を潰そうという彼らの判断は、彼らの人生を守った。
偉いと言うべきか、気の毒だと言うべきか。
いや、どの言葉も相応しくない。
言葉が見つからないあたしは、言葉を切って翳った顔でうつむく須王の頭に手を伸ばして、いい子いい子と優しく撫でた。
すると須王はあたしの手を取り、自分の頬につけてから、あたしの掌にちゅっと啄むような軽いキスを落とした。
そして、じっと見つめられ……、お互い身を乗り出すようにして唇が重なった。
……彼の唇は震えていた。
強靱な肉体をしていても平気なわけはない。
平気なふりをしているだけ。
組織の影は、今でも彼を苛むものとして生き続けている――。
「……あのさ、拉致してきた大人達の顔や、使い物にならなくなった子をどこかで大人になるまで成長させた顔を、整形しているということも考えてみたんだ」
「うん?」
「ありえなくもねぇが、あの顔にこだわる意味がわからねぇ」
あたしは思わず笑ってしまった。
確かにあの黒服の顔が特別に素晴らしいというわけでもない。
むしろ不気味だ。サングラスを外すのが怖い。
「……あのね。サングラスを外して出てきた目が、一昔前の少女漫画のように、ばっさばっさな睫毛に縁取られた、大きな星を宿した愛らしい目だったらどうしよう」
そう須王に言うと、須王は腹を抱えて笑い出す。
「さすがはお前だ。腹痛ぇぇ」
……憂いが吹き飛んだなら、なにより。
須王に笑って貰うためには、あたしピエロにもなるよ。