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エリュシオンでささやいて
第10章 Changing Voice
「棗があの顔をした、過去の犯罪者や著名人のものをを調べているが、ヒットしないらしい。それで今、ネットからたぐって、十五年前から二十年ぐらい前の古い卒業写真であの顔を持つ男、あるいは妙に相似している男の顔を調べているが、まだ見つけられねぇ」
「棗くん、パソコンしてるの?」
「はは、棗のコネで調査させている。ハッキングを得意分野とする集団に。表社会に出ている顔ならば、どこかで繋がるはずなんだが」
「でも、早く成長出来る大人を作るっていう方が、SFみたいで無理があるような……」
「ああ。出来ればその仮説には行き着きたくねぇ。あくまで可能性のひとつだ。組織が黒服達を作っていたと考えるのは」
もしも今、須王の体験した組織が復活していたとして、今も変わらず任務に失敗したら命を捧げないといけないというのなら、昔も今も、あたしが見ていた黒服達は常に新しく見る男達だということになる。
若さ的に同じ時期と思われる黒服達が湧くのは異常。
「今の黒服は命捧げなくて、同じ黒服の使い回しなんじゃ?」
「現実的に考えればな。だが昔の組織の時と、今も同じ姿というのがひっかかる」
人間のお腹から六つ子は生まれたことがあると聞いたことはあるが、毎年毎年六つ子を産んでいたとしても、数が追いつかない。
それに須王が九年前には組織を潰しているのだ。
その時の残党であるのなら、皺があったり白髪が交ざっていてもいいし、もしも違う黒服と言うのなら、組織が潰れた後も相変わらず、黒服を訓練させられる組織が存続していたということにもなる。
短期間で、似た風貌を増殖出来るのならば、確かに話は早い。
だが故意的にひとを増殖させるとなれば、その方法はあたしの想像には及ばない。
どうしてもあたしには、映画や漫画の……、ご都合主義の架空の世界としか思えないのだ。
「なんであたしなのかなぁ」
あたしは机に突っ伏した。
「平々凡々なのに……」
「俺にとっては、お前は特別で最高だけど?」
くぅぅ、真顔でそんなことを言うな。
「お前という存在でなければいけない理由か……」
……しかし答えは出てこなかった。