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エリュシオンでささやいて
第10章 Changing Voice
 

 だけどあたし達凡人はまず無理だ。
 視覚に訴える資料を見て、そこで判断する。

 だから彼の頭の中のものを、あたしがきちんと整理整頓しないといけない。

 早打ちは得意ではないけれど、モグモグ、カタカタ頑張る。


 その時、突然救急車のサイレンが聞こえ、大きくなってくる。

 救急車は嫌だ。
 亜貴が倒れた時のことを思い出すから。

 それでも――。

「え、ここのビルに来るの?」

 そちらの思いに野次馬根性がむくむくと湧き上がる。

 パソコンを一度ロックをかけてから(席を外す際はもう常識になった)、他の社員達と並ぶようにして、共に窓の外を見つめると、サイレンを止めた救急車の中から、救急隊員が担架を持ってビルの中に入ってくるようだ。

 結局何階に担架が運ばれたのかはわからなかったが、窓から見る限りに置いては運ばれたのは男性で、続いて車に乗り込んだのは――。

「ん? 鹿沼さんと香月課長?」

 上からはよくわからないし、見間違いかもしれない。
 それでも、もしシークレットムーンの社員が救急車を呼んだのなら、鹿沼さん大丈夫だろうか。亜貴の時のあたしみたいに、テンパっていないだろうか。

 ドアが閉まって、救急車が走り出す。

 鹿沼さんに浅からぬ縁を感じるあたしは、小さくなっていく救急車をぼんやりと見つめることしか出来なかった。

 悶々として三十分。どうしてもあれが鹿沼さんだったのかが気になってしまい、自分を安心させたいためにも、須王が電話を始めた時にシークレットムーンに行ってみることにした。

 『さっきの救急車、シークレットムーンか聞いてくる』

 そうパソコン画面に表示させて指をさし、なにかを言っている須王を背にとことこと階下に行く。
 
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