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エリュシオンでささやいて
第10章 Changing Voice
今日のシークレットムーンは、閑散というよりもざわめいていた。
ちゃんとひとはいるようだ。
鹿沼さん、いてくれれば安心なんだけれど。
「すみませーん、鹿沼さん、いらっしゃいますか?」
腰を屈めながら恐る恐るといったようにして中に入ると、いつぞやのしゅうしゅうさんが対応してくれた。
「――あ、やはりあの救急車は、御社が呼ばれたんですか」
「はい、実はうちの社長が倒れたっす。それを発見した鹿沼主任と香月課長が病院についていったっす」
「そうなんですか、運ばれたの社長さんだったんですか……」
「ヨボヨボでもないっすが、ちょっとうち最近バタバタしていて、いつも飄々としている社長も精神的にやられたかもっす」
「そうなんですか。せめて近くの病院でも、問題なく入れればいいですね」
救急車の搬入先は、こちらの希望が通るとは限らない。
その病院が、満床とか新規を受け付けないとか、入院の受け入れ拒否をされてしまえば、最悪東京を山手線のようにぐるぐるとさまようことになる。
亜貴がそうだった。
一番最初倒れた時に、入院先を見つけるまで実に一時間はかかったんだ。
「あ、病院はT大付属病院に搬入されたっす」
「T大付属病院? 本当に?」
なんという偶然!
「本当っす。なんでも社長の侍医がいるとかで、課長から電話がきたっす」
興奮しているのか、やけにしゅうしゅうと空気が漏れて聞こえる。
凄い、野生的……と言えるのか微妙だけれど。