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エリュシオンでささやいて
第10章 Changing Voice
「だったらまずはひと安心ですね。鹿沼さんも香月課長も社長についていらっしゃるのなら、きっと大丈夫。おふたりが抜けた中でのお仕事、大変そうですが頑張って下さいね」
するとしゅうしゅうがさらに大きくなった。
なんだろう、鼻の穴も大きくなっている。
でもまあ、聞きたいことは聞けたし、無事に入院も出来たようだし、不幸中の幸いでいいことにしよう。うん、王様を待たせてはいけないね。
「ではこれで」
「あ、あの……、あの……おお、俺っ、俺っ、木島と……うおおおおっ! あれはまさか早瀬……」
須王が自動ドアの向こうに立っているのが見えた時、背後でなにやら騒いでいたしゅうしゅうさんの雄叫びが聞こえたような気がするが、振り向くのが遅く、ドアがしまったあとだった。
空耳だったのかしら?
「お前、ナンパされてるなよ」
「は? あのひとは鹿沼さんの部下で、前にあったことがあるのよ。ナンパじゃないわ!」
「そうかな……」
須王は不機嫌そうにシークレットムーンを見つめていた。
「あ、香月課長も救急車に乗ったみたい。会えないよ」
「別に会いてぇなんて言ってねぇだろ!?」
須王様、片眉をピーンと跳ねあげさせて、ご立腹。
……そこまで嫌か、香月課長の話題は。
「そうだ、T大付属病院に社長さんが入院したんだって。もしかして会えるかもよ、香月課長と。小林さんみたいな特別棟だったりして」
わざとにやにやしてそう言うと、須王はそっぽを向いて返事をしてくれなくなった。
知人がすぐ敵になって誰が味方なのかわからない現在、どうか鹿沼さんや香月課長達……あたしが好感を抱いた人達だけは、あたしの敵として現われないで欲しいと思う。
無害だと思えた隆くんですら裏切って、突然に姿をくらましたんだ。
どうか、親身になってくれた彼らだけは――。