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エリュシオンでささやいて
第10章 Changing Voice
 

「私は社長とは直接的な面識はないけれど、ビルには社長と仲がいい忍月財閥のボンボンがいるからね。ねー、須王」

「知るか」

 いつの間にか、備え付けの簡易シャワー室から出てきた須王が、頭をタオルで拭きながら吐き捨てる。
 
 そりゃあ出てきたばかりの水も滴るイケメンには、わかるはずはないだろう。だけどビルに宮坂専務の居る忍月財閥直下の忍月コーポレーションという大企業が入っているのなら、縁故で関係者や親族が入っていてもいいような気がする。

 そういえば、忍月コーポレーションに通いながら、オリンピアの影にいると思われる音楽協会に在籍するひとがいたんだっけ。
 もしかして、そのひとのことなのかしら。

 だけどまぁ、いいところに社長さんが入れたのなら、きっと鹿沼さんもひと安心だろう。香月課長も。


「ここでひとつお知らせがあります」

 棗くんが言う。

「せっかく病室に慣れてきたけれど、不幸中の幸いにも患者が、驚異的な回復を見せているそうで、もう病室を出ようと思います」

「えーなんでさ!」

 病院内のコンビニから、たくさんのペットボトルをレジ袋に入れて戻ってきたばかりの裕貴くんが言う。

「安静ならここじゃなくても須王のスタジオでも出来るし、スタジオの方が広いしストレスが少ない。セキュリティもしっかりしていて、私達も動ける。それよりなにより……ここ高いのよ」

「棗くんが料金出してたの!? あたしも出すよ!」

「そう? だったら折半なら上原サンは……」

 棗くんがスマホの計算機のアプリを立ち上げて、あたしだけに見えるように入力した金額を見せてくれた。

「……へ、へぇぇぇ!? 一、十、百、千、万、十万……」

 絶句するあたしから、裕貴くんは棗くんのスマホを取り上げて、女帝と覗き込んで、あたしと同じように言葉を失っている。
 
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