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エリュシオンでささやいて
第10章 Changing Voice
須王のプロジェクトに参加出来て嬉しいけれど、長年の通常業務をイベント課に引き継いで、プロジェクトが終わったらまたいつも通りの仕事が出来るかわからない。その時はイベント課の仕事になったものを、少し回して貰う程度になるかもしれない。
不安を抱えながら、あたしの場合はイベント課の課長に引き継ぐ。
こちらも仕事があって忙しい、と、育成課の仕事をするのがとても嫌な顔をされてあたしは心苦しかった。
一番危惧するところは、顧客フォローだ。
担当が変わろうと顧客はエリュシオンを信頼してくれている。
それを裏切ってしまっていたから、エリュシオンは今の崩壊寸前になっているのに、同じ轍を踏まないで貰いたいのだけれど。
あたしが担当したものだけでも、顧客を裏切ったり失望させたりはしたくない。いい音楽を届けるために、それを奏でられる人材を育成して欲しい――。
……そんな憂慮の心地で引き継ぎをしている間も、女帝が美保ちゃんに怒鳴る声が二階にも届く。
女帝はもう完全に猫を被るのをやめたみたいで、そのストレートさで美保ちゃんを追い詰めているようだ。
美保ちゃんも癇癪を起こすようにしてわあわあ泣いている中で、電話が鳴れば女帝は途端に今までの優しい営業用の声で対応し、美保ちゃんの口を押さえながらそつなく業務をこなすのが凄いと思う。
やがて会議室に籠もって曲を考えているらしい須王がうるさいから鎮めてこいとなぜかあたしに言い、あたしは修羅場と化した受付にびくびくしながら訪れた。