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エリュシオンでささやいて
第10章 Changing Voice
「だから、あんたひとりの判断で社長に電話かけられるはずがないでしょうが! 誰に言われたのか、それを言えと言っているの!」
「だから、私の判断だと言ってるじゃないですか! 美保が悪かったと謝っているのだから、もうそんなにキーキー怒鳴らないで下さい!」
「それは逆ギレというの! あんたはそれだけのことをしでかした自覚があるの!?」
「どうして牧田さんの病名を間違って伝えただけで、そこまで怒られないといけないんですか」
「問題は間違ったことじゃないの! あんたが規律を乱したことよ!」
「それは奈緒さんの勝手なルールで……」
「あら、あんただって勝手なルールをしているでしょう?」
「なんですか、それ」
……なんだろう、美保ちゃん、女帝が怒鳴る度に目をそらしている。
後ろめたいから?
あたしはその視線が妙にひっかかった。
足元にある、床にある延長式の六つ口の白いテーブルタップ。パソコンや電話など色々とコードがささっている。
どうしてそこばかり?
まさか、盗聴器……あのタップとか?
あたしは棗くんから借りた、盗聴器の探索機を起動させて美保ちゃんの背後を通るようにして屈み込んで、タップに探知機を向けた。
すると、大音量で歌声が流れ始めたのだった。
『ここよ、ここここ、そこはいやん』
あまりにはっきりと聞こえる……誰かの女声だったために、フロアがしーんと静まりかえる。
『ここよ、ここここ、そこはいやん』
皆あたしを見るから、あたしは身体を強張らせながらも、探知機を消してそっと袖の中に隠した。