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エリュシオンでささやいて
第10章 Changing Voice
 
 
 ……いやまあ、須王のプライベート用のスマホの着メロを笑点に変えてしまうお茶目な棗くんだから、ありえない事態ではなかったけれど、だけどあたしは、そのありえない事態を想定していなかった。

 さらに探知機の存在を隠してしまえば、音がして消えた方向にいるあたしが、蹲りながらそんなおかしな歌を歌ったと勘ぐられる……いや、もう勘ぐられていることに気づいて青くなる。

「ち、違……あたしじゃないっ」

 だが、皆の頭には、きっちりと節をつけた声が再生しているはずだ。
 あたしの頭の中にも、リピートしているもの。

『ここよ、ここここ、そこはいやん』


 ……棗くんの馬鹿。


「ぶははははは」

 あたしの危機に、いつの間にやら立っていた須王が笑った。

「お前、幾ら喧嘩を止めたいとはいえ、それはないわ」

 笑いながらもダークブルーの瞳は怜悧さを失っていない。

 くそ、この男。
 わかっているくせに、あたしを犯人に仕立てるつもりか!

「それともスマホかなにかの音楽なわけ? そういう趣味?」

 あたしはぎりりと歯軋りをして、スカートをぎゅっと握りしめ、須王を睨み付けて言った。

「……あたしが歌いました!」

 きっと事態を把握していなかったのだろう女帝が、残念な子を見る眼差しを向けている。

「ああ、それと。ビルの電圧点検に業者が来るそうだから、午後はちょっとパソコンストップな。はい、各自業務につけ!」

 須王がパンパンと手を叩き、女帝とあたしを呼ぶ。

「会議室集合」

 怒ってやる、怒ってやる!
 モグモグの歌をおかしなものにさせた須王に、怒ってやる!
 
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