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エリュシオンでささやいて
第3章 Dear Voice
 

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 車は神奈川県横浜に向かい、JR関内近く横浜公園の出口で首都高を下りた。

 一般道に下りる時、ハンドルを切る際に手が緩んだ隙にすっと手を引く。
 眼鏡姿の早瀬があたしを睨み付けるようにして一瞥したが、あたしは素知らぬふりをして、初めての横浜の景色を見ていた。 

 早瀬に握られていた手が、じんじんして火照っている。
 そんな早瀬の名残を早く消し去りたくて仕方がなくて、窓を開けた。

 なんだか顔まで火照っていたみたいで、冷風が気持ちよかった。
 

 横浜公園は、横浜スタジアムを内包する大きな公園で、それを回り込むようにして曲がり、海の方に向かっていく。

 神奈川県は東京の隣にある。
 こんなご近所さんなのに、港町の景色が現われるのは正直驚いた。

 車は、なにかで見たことがある赤レンガの建物に向かう。

「赤レンガ倉庫内の赤レンガパークで、ライブイベントがある。大手プロダクションもスカウトに来ているらしい、大きなイベントだ。そこに乗り込む」

「乗り込むって……。スカウトされたのならあたし達の手には……」

 大丈夫。意識しないでいつものように言える。

「かっ攫うのさ。だから俺も来ただろう?」

 早瀬はにやりと笑いながら、赤レンガがよく見える駐車場に車を停めた。

 そりゃあ早瀬須王の名前を出せば、多くの歌い手は喜んでスカウトを蹴って早瀬の方に懐くだろうけれど、

「それ選ぶのは……」

「勿論、お前」

 ……ここであたしが人選間違えたら、早瀬の責任になる。
 うわー、この男、あたしを地獄(タルタロス)に沈める気か。

 その緊張と逡巡は早瀬に伝わったらしい。

「お前は間違わねぇよ」

 一瞬の隙を突かれて、せっかく離した手を取られる。

「ちょ……「お前は、俺が選んだ女だから」」

 そう言うと、早瀬は挑発的な目をして、なんとあたしの手の甲に口づけたのだ。……騎士のように。
 
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