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エリュシオンでささやいて
第3章 Dear Voice
 

「ひぃぃぃぃっ!!」

 全身総毛立ち。思わず声に出して、ドアを開けて逃げようとするのだが、鍵にロックをかけられて開かない。

 あたしは許容量を超えて混乱の極地に居た。

「開けて~、もう嫌~っ!!」

 がちゃがちゃと音をたててもドアは開かない。

「……こんな程度で。奥まで繋がっただろうが、昨日」

「開けて、開けて~っ!! 誰か~っ!!」

「……」

「うわ、すごい鳥肌ブツブツ、やだ~っ!!」

「……」

「キモっ」

 ぷちっと、なにかが切れるような音がした気がした。

「……むかつく。すっげぇむかつく!! ここまでさせておいて、特別と思うならまだしも、キモってなんだよ!! 言えねぇ事情がある俺の立場も考えずに、鈍感過ぎるにもほどがあるぞ、お前!」

「うぎゃっ、鼻噛まないでよ!! なに野性に還ってるの、なんなのよ、あなたなんなんですか!!」

「お前が悪い。ひとの気も知らねぇで、俺を盛大に毛嫌いするから。そっちがその気なら、俺だって!!」

 早瀬のダークブルーの瞳が、苛立たしげに細められた。

 怖っ!!

「逆ギレ!?」

「違う。ただ焚きつけられて、喧嘩を買うだけだ」

「はあああ!? 喧嘩!?」

 喧嘩って誰が? なんであたしを見るの!?

「俺は、嫌われれば嫌われるほど、燃え上がる性分なもんで」

「燃えなくていいですから!! 燃えたの海に沈めて消してきてくださいよっ!!」

「……もう俺は、お前の言葉と行動で沈みきってるよ。だから――」

 シートベルトの外れる音。
 それはあたしからではなく。

 ゆっくりと伸びる早瀬の身体が、助手席のあたしの領域を侵した。

「――お前も溺れろ」

 妖艶なダークブルーの瞳を眼鏡のレンズ越しに妖しく揺らめかせて。

「俺を振り切れると思うな」

 近づいてくる。

 あたしを騙す合図の唇が。

 驚きに見開くあたしの目。
 なんの冗談?
 
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