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エリュシオンでささやいて
第10章 Changing Voice
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――このままでは最悪……俺達しかいなくなる。
須王の言葉が頭にリピートしている。
結局――、棗くん経由で派遣されたらしい盗聴器探索業者が見つけた盗聴器は、受付のタップの他に各課課長と今村部長の電話の内部に取り付けられていたらしい。
タップはコンセントに差し込めばいいだけなので、外部から持ち込まれた可能性はあるが、電話については素人がいじれない。
一番可能性があるのは、以前パソコンと共に電話を一式総入れ替えをしたのだが、その時既に盗聴器を仕込まれていた電話を入れたということ。
電話を手配したのは西尾総務部長で、二ヶ月前に離婚のショックで重度のうつ病を患って、精神科の病院に入院中の五十代のおじさんだ。
精神を患っているひとに正確な言葉は期待出来ないかもしれないという懸念を抱きながらも、須王が社長に相談したところ、タクシーチケットをたくさん渡した上での「行ってこい」との命が下されたらしい。
なんの接点もない須王が行くよりは、西尾さんとよく会話していた女帝が話した方がいいということで、ひとり残ることが出来ないあたしもお邪魔して、三人で西尾部長に会いに行くことになった。
「だけど、彼……盗聴器つきだと知っている電話を入れるほど、度胸がある奴ではないと思うのよね。基本小心者で、元妻が浮気して出ていって慰謝料請求されても、言われるがままみたいだったし」
「そんなことまで話しているんだ?」
「なんだかわからないけど、駄目人間ほど、聞いてもいないことをぺらぺらと自慢げに喋ってくるのよね。私に怒って貰いたいのかしら」
女帝を知れば、彼女に話したくなるのはよくわかる。
あたしですら、過去のことを話したのだから。
「だが、そんな流される奴が、離婚だけが原因で入院するほどのうつ病を発症するか?」
助手席に座る須王がぼやく。
「つまり、盗聴器を持ち込んだ罪の意識に耐えかね、と?」
「もしくは……精神的な威圧を受けたのか」
盗聴器を仕掛けろと言った相手に、か。