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エリュシオンでささやいて
第10章 Changing Voice
 

「オリンピアかな」

「……わからねぇが、今のところこちらの情報が流出していることで得をしているのは朝霞のところだな」

 あたしは黙って外の景色を見ていた。





 病院は東京都中野区中野の、繁華街から外れたひっそりとしたところにあった。

 古ぼけた小学校や中学校の校舎に、ひとつひとつ窓に鉄柵が取り付けられているような、重々しい感じがする。

 正面玄関から入ると、外来で来ていた年老いた男女が、待合所の椅子に座って、生気のない仮面のような顔であたし達を見るから、あたしは静かに視線を外した。

 入院受付のところで西尾部長のことを聞くと、重度の暴れる患者を収容している隔離病棟に居るという。

「そこまで程度が酷いんですか?」

 思わず聞いてしまったが、医者でなければわかるはずもなく、ちょうど外来の診察をしていたらしい担当医が外来が終わって横切った際に、受付のお姉さんは声をかけてくれた。

 会社の引き継ぎの件でどうしても聞きたいことがあるのだと、名刺を出して懇願すれば、医者は困った顔をしながら、相談室と名札がかかった部屋で、ぽつりと話してくれた。

「実は西尾さんは、極度にひとに怯えていますので面会はできないのです」

「怯えている? 怖がっているんですか?」

「はい。私共スタッフですら、いまだ怯えられていて、そして無理矢理に話をしたりすれば発作のように自傷行為に出ます。全身を掻きむしったり、舌を噛み切ろうとしたり」

「自傷行為……」

 あたし達は顔を見合わせた。
 
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