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エリュシオンでささやいて
第10章 Changing Voice
  

「原因はなにかあるんですか?」

「それがわからないんです。話そうにも悲鳴しか上げない。ただ……自分は間違っていたと、部屋の隅で縮こまって独り言を言っている時があります」

「間違っていた……ですか」

「それと、歌を……歌いますね。とは言っても歌詞があるわけではなく、ただメロディーを口ずさむというか……」

 途端に須王の空気が変わる。

「まさか、こういうメロディーですか?」

 須王が口にしたのは、悲哀に満ちたメロディーだった。

「はい、まさしくそれです。なにか意味があるんですか!?」

「あ、いや……よく彼が会社でも口ずさんでいたもので。思い出の曲らしいです」

 そう笑う須王はでたらめを言ったのだとあたしはわかった。
 恐らくそれは――。


「……邪見。十の掟のうちのひとつだ」

 病院を出た時、ぼそりと須王はあたしにだけに呟いた。


 エリュシオンに仕掛けられた盗聴器が、なぜ須王がいた組織に関係するのだろう。

「嘲笑ってやがるんだ。後手に回る俺を」

 須王は空を睨み付けて言った。

「俺が潰した残党か関係者が俺に警告している。十の掟は、組織は生きているのだと。そうだとしたら、今俺が置かれてい状況に、あいつらの駒は十の掟に沿って配置されていることになる」

「その掟を覚えれば、敵だと警戒出来るということ?」

「ああ、だが……。掟は仏教の十悪を諫める十善戒というものから来ているらしい。だから恐らくそれは、特別なものではなく……どの人間にもあてはまる戒めなんだろうと思う」

 即ち、誰が駒かと特定出来ないということ――。

 
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