この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
エリュシオンでささやいて
第10章 Changing Voice
「原因はなにかあるんですか?」
「それがわからないんです。話そうにも悲鳴しか上げない。ただ……自分は間違っていたと、部屋の隅で縮こまって独り言を言っている時があります」
「間違っていた……ですか」
「それと、歌を……歌いますね。とは言っても歌詞があるわけではなく、ただメロディーを口ずさむというか……」
途端に須王の空気が変わる。
「まさか、こういうメロディーですか?」
須王が口にしたのは、悲哀に満ちたメロディーだった。
「はい、まさしくそれです。なにか意味があるんですか!?」
「あ、いや……よく彼が会社でも口ずさんでいたもので。思い出の曲らしいです」
そう笑う須王はでたらめを言ったのだとあたしはわかった。
恐らくそれは――。
「……邪見。十の掟のうちのひとつだ」
病院を出た時、ぼそりと須王はあたしにだけに呟いた。
エリュシオンに仕掛けられた盗聴器が、なぜ須王がいた組織に関係するのだろう。
「嘲笑ってやがるんだ。後手に回る俺を」
須王は空を睨み付けて言った。
「俺が潰した残党か関係者が俺に警告している。十の掟は、組織は生きているのだと。そうだとしたら、今俺が置かれてい状況に、あいつらの駒は十の掟に沿って配置されていることになる」
「その掟を覚えれば、敵だと警戒出来るということ?」
「ああ、だが……。掟は仏教の十悪を諫める十善戒というものから来ているらしい。だから恐らくそれは、特別なものではなく……どの人間にもあてはまる戒めなんだろうと思う」
即ち、誰が駒かと特定出来ないということ――。