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エリュシオンでささやいて
第10章 Changing Voice
あたしは帰りのタクシーでこっそりと、スマホで十悪と十善戒について調べた。確かに以前、須王が言っていたような掟の内容が、そこにある。
「殺生」⇔「不殺生(殺すこと勿れ)」
「偸盗」⇔「不偸盗(盗むこと勿れ)」
「邪婬」⇔「不邪婬(邪に交わること勿れ)」
「妄語」⇔「不妄語(虚偽やでたらめを言うこと勿れ)」
「綺語」⇔「不綺語(無意味なことを言うこと勿れ)」
「悪口」⇔「不悪口(人を中傷すること勿れ)」
「両舌」⇔「不両舌(他人の仲を裂くこと流れ)」
「慳貪」⇔「不慳貪(貪欲になること勿れ)」
「瞋恚」⇔「不瞋恚(怒り憎むこと勿れ)」
「邪見」⇔「不邪見(見解を間違うこと勿れ)」
この内、音楽が鳴って示していたのは、情報を盗んだ牧田チーフの「偸盗」、間違っていたと呟いた西尾部長の「邪見」。
その他天使が歌っていたのは「瞋恚」らしいけれど、九年前の存在を一緒に入れていいのかよくわからない。
明らかに敵側であり、いなくなった隆くんがここに入るとすれば「両舌」。彼はあたしの交友関係に楔を打ち込もうとしていたのは確かだ。
盗聴器があることを知っていた美保ちゃんも入れるとすれば、でたらめなことを言ったのだから「妄語」?
疑えばきりがない。
だれかが駒として、悪さを背負ってあたしの周りにいると思えば、この先が得体の知れない不安に襲われる。
ただの偶然であって欲しいけれど、十悪という言葉は仏教用語であり、音楽と結びついていない。結びついて教えていたのは、須王が属していた組織「エリュシオン」のみ。
誰が考えてて、須王の周囲に十悪を配置したのがわからないから不気味でたまらない。
一体誰が、どこから……生き残りである須王を見張っていたというのだろう。須王と、そして棗くんを。
もしかすると、あたしが狙われているのも……須王に近い立場にいるからなのだろうか。
そう思ったけれど、やはり九年前の天使の記憶の一件に関すれば、あたしもまたなにか狙われる起因があるように思えた。