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エリュシオンでささやいて
第10章 Changing Voice
エリュシオンに戻ると、お約束のように美保ちゃんが体調不良で早退をしていて、女帝が地団駄を踏んだ。
「もうなんなの、あいつ! 逃げれば助かるとでも思ってるわけ!? 絶対逃がさない! ちょっと私、美保の家行ってくるわ!」
執念の女帝、会社まで徒歩数分というところに住んでいるらしい美保ちゃんの家に向かった。
近いからひとりで走って行ったけれど、ちょっと心配だ。
行く前に比べると社員の数が減っている。
外回りかと思ったが、机がやけに綺麗に片付けられていて、それだけで不安になる。彼らはもう戻ってこないのではないかと。
「柚」
須王に呼ばれて、いつもの会議室に入る。
「棗から電話があった。隆について」
「どうだった?」
「まず履歴書に書かれていた住所にはいなかった。そこで上のおばさんを電話で呼び出して、隆の友達を装ってどこに行ったのか聞き出したらしいが、言われた住所はもぬけの殻、電話は通じねぇ。そこでヤクザを装って」
「え、誰が?」
「棗が。ドスの利いた声を出してヤクザの物真似をして、隆が怪我をさせた治療費を払えないと言っているから、叔母が出せと。そうしたら叔母ではなく、隆から叔母のふりをしてくれと頼まれただけの赤の他人だと泣かれたそうだ」
「あ……」
隆くんもおばさんも嘘をついていたのか。
わかっていたとはいえ、事実を突きつけられるのは結構ショックだ。