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エリュシオンでささやいて
第10章 Changing Voice
「隆の居所は不明。生死も不明だ。だがもう少しあたってみるそうだ」
「そう。棗くんに後でお礼言わなきゃね。手がかりないのに走って貰っちゃって」
「ブレスレット貰って張り切ってるんだろうよ。放っておけ」
「いやいや、それとそれとは」
「同じだよ、いいんだよ、あいつは」
なぜか須王が拗ねてしまった。
その時あたしのスマホが鳴る。
画面を見ると女帝からだ。
「もしもし」
『柚、大変なの! 早瀬さんも近くにいる?』
女帝の声が震えていた。
「うん、いるけどどうしたの?」
女帝の声が乱れて、いつも以上に甲高い。
なにかおかしい。
『美保が、美保がっ、うぇぇぇぇっ』
激しい動揺と嘔吐。
これは、尋常ではない。
須王があたしのスマホを奪い取って出た。
「今から行く。住所は……ああ、あのでかいマンションの裏側だな」
そしてスマホを切り、あたし達は急いで女帝がいる美保ちゃんの家に行く。
電話口で須王に女帝が口にした目印は、須王はすぐに思い至るものであったらしく、すんなりと迷うことなく行き着いた。
チャイムを鳴らすが誰も出てくる気配がなく、鍵がかかっていないドアを開けて、無断で家に上がらせて貰った。
「奈緒さん、来たよ。奈緒さん?」
「……なぁ、音楽が聞こえねぇ?」
「え……。確かに聞こえるわ」
細い廊下に、なにか冷たい風が吹いたように感じてぶるりと身震いする。
牧田チーフを思い出す。
女帝の反応を見ていれば、十中八九、あの時と似た光景がこの先に広がっているのだろう。
あたしも須王も、この先に踏み込むのは本能的に躊躇する。
だが須王はあたしの手をきつく握ると、そのまま音が聞こえる、突き当たりの広い空間に赴いた。
そこには壁際で吐いている女帝の姿があった。