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エリュシオンでささやいて
第10章 Changing Voice
 

 美保ちゃんが可哀想で、犯人に激しい怒りを感じる。
 確かに彼女は嘘をついたし、今までもあまりいい態度ではなかったけれど、なぜ他人にここまでのことをされないといけないのだろう。

 テーブルに置かれていた小さなカセットデッキ。
 今の時代に珍しいその機械は、この場にそぐわぬ陽気な音楽を奏でていた。

 須王も苛立ったようにデッキを床にたたきつけた。
 その衝動で音が鳴らなくなる。

「モウゴ……」

 その呟きは、あたしの頭の中で、スマホで見た十悪と十善戒に変換される。

 妄語、つまりあたしの予想通り、虚偽やでたらめを言ったための美保ちゃんの罰。
 おそらく流れていた音楽は、組織のその掟に対応する音楽なのだろう。

 須王の握り止められた拳が、怒りに震えている。
 そして彼は仰け反るようにして咆哮した。

「ああああああっ!!」

 あまりにも惨い見せつけは、メッセージ性があった。
 もしかして隆くんも……そんな不安に駆られながら、あたしはふたりに聞いた。

「救急車呼んでいい?」

 その声がやけに落ち着いて自分でも、違和感あるように聞こえた。
 惨憺たる現場を見たのはこれが最初ではないから、幾らか耐久性がついたのだろうか。

 あたしの頭の中で、なにかがちらちらと映り、床にごろりと転がって真紅色に塗れる。

 ありえない。
 切り落とされた頭を見たことがあるなんて。

 それでもあたしは、どこか、こうした血色の惨劇を見るのが、慣れきったように冷めたように感じている自分がいることも感じていて、そんな理解出来ない自分にぞっとした。

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