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エリュシオンでささやいて
第10章 Changing Voice
「本当!? どこに居たの!?」
「品川の柘榴坂に」
柘榴という響きにあたしは口を噤んだ。
「東京に居た。しかも人が多い場所で……ナイフを持って暴れていたそうだ」
「隆くんが!?」
「ああ。誰かに殺されると騒いでいたらしく、それで精神病院に送られたそうだが、自分のことを思い出せずに、とにかく、逃げなければと強迫観念が植え付けられているそうだ」
「なにから逃げるつもりなんだろう」
「隆は、エリュシオンと口にしているらしい」
「……っ!!」
「それと、ひとを傷つける恐れがあると、平尾のような精神病院の閉鎖病棟に入れて隔離されているらしいが、棗が監視カメラの映像を抜いてきたようだ。あいつが戻って来たら、隆かどうかの確認、俺だけでもいいか?」
須王は気遣ってくれているのだろう。
恐らく、そこには隆くんの面影がないのかもしれない。
だが、あたし以上に隆くんかどうかを確認は出来ないだろう。
あたしはほぼ毎日会って、話をしていたのだから。
「あたしも一緒に見る」
「……いいのか?」
「うん。あたしも、現実から逃げていたくないの」
残酷な場面ばかり見せつけられているけど、負けたくない。
もしも須王へのメッセージなのだとしたら、あたしだって須王を守るために強くならなくちゃ。