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エリュシオンでささやいて
第10章 Changing Voice
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久しぶりのハデス御殿には、小林さんが離れの方でテレビを見ていた。
かなり退屈していたらしいが、病院にいるより精神的に元気そうだ。
棗くんはもう少しで学校を終える裕貴くんを乗せて、帰って来るらしい。
女帝はスタジオに着くと車内で目を覚まし、元気ぶってはいたけれど、真っ青な顔色はまだよくなっていないから、部屋で寝かしつけた。
「すぐ元気になるから。ごめんね、柚……」
喧嘩が強くても女帝だって女の子だ。
むしろ、ああいう場面を見てもけろりとしているあたしの方が、女の子ではない気がする。
なんで最初に見た時の驚きこそあれ、その後は見慣れてしまっているような、冷めた心が胸に残るのだろう。
釈然としないものを胸に抱えながら、久しぶりのハデス御殿を掃除をしていると、元気のいい裕貴くんの声がした。
「柚、ただいまっ!!」
「おかえりなさい」
裕貴くんは弟みたいだけれど、ネクタイとブレザー式の制服は、彼を年齢以上に大人びてみせる。
あたしと須王が出会ったのが、ちょうど裕貴くんの年頃。だから余計眩しく感じてしまう。後悔ばかりのその年代を、元気に生きている裕貴くんを。
「須王、どこで見る?」
後ろから、車の鍵を持って棗くんが現われる。
今日はワイン色のスーツに同色のイヤリングをつけて髪を垂らした、どこからどう見ても色気たっぷりの才女。
あの腰回りなんて、あたしより細いんじゃなかろうか。
もう本当に棗くん見たら、あたしは女で生きていく自信をなくしてしまう。
しかも須王と本当にお似合いだ。
見ているだけでため息が出る、超絶美形カップルだ。
あたしは所詮モグラだしと、やさぐれて言い訳してみるけど、まるで無意味だ。
「ああ、柚も一緒に見るって」
「え、上原サンいいの?」
「うん。大丈夫、なにが出てきても平気」
あたしは拳にした手に力を入れてみせた。