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エリュシオンでささやいて
第3章 Dear Voice
「俺はひとりだけでは、溺れるつもりはねぇ」
僅か1cmにも満たない至近距離で、上から被さるようにして、早瀬は甘い声で囁くようにして言う。
「お前も溺れさせてやる」
唇が、その吐息が。
「覚悟しろよ、柚――」
固まって動けないあたしの前で――、
チャンチャカチャカチャカ、
あたしのものではないスマホがメロディで着信を告げた。
スッチャンチャン、ピィ。
「これは……ぷっ」
耳にしたことがある、脱力しそうなメロディに吹き出しかければ、一瞬忌々しそうに美しいその顔が歪み、音楽を無視してまた唇が少しずつ――。
……チャチャラチャラチャラ、チャッチャ~、チャララン。
この後に続くのは。
プヒィ。
「あはははははは」
最後の気の抜けたおならみたいな音に、あたしは堪えきれずに顔を横に背けて笑い転げた。
「ああくそっ、なんでかかってくるんだよっ!!」
「なんで……、なんで笑点の着メロ……っ」
苛立ったように取り出したのは、プライベート用だと言っていたスマホ。
画面に〝棗〟と出ている。
ぶちっと早瀬は切ってしまったが、1秒も経たぬ間にまた聞こえてくる。
チャンチャカチャカチャカ……。
「ぶはははは」
あたしの笑いも止まらない。