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エリュシオンでささやいて
第10章 Changing Voice
「……ふぅん?」
棗くんはなにかいいたそうにあたしを見ていたが、やがて片手で、肩に掛かった長い髪を掻き上げるようにして、小林さんが見ていたテレビを目線を向けた。
「ちょっと今から、スプラッターではないホラーを鑑賞するけどいいかしら」
そうか、ホラー系なのか、隆くん。
凄く心が痛むけれど、やはり大画面の方がいいということで、小林さんと裕貴くんも交えることになった。
棗くんは、棗くん特権で手に入れた映像が入ったマイクロMDカードを、テレビの裏の差し込み口に入れて、リモコンで外部入力画面に切り替えてから、再生させた。
ジジ……、カメラ特有の音とぶれがある中で、青白い色彩に統一された部屋が映し出され、そこに蹲るひとの姿があった。
今にもでんぐり返しでも始めそうなほど小さく丸まって、部屋の中に居る。
部屋は鉄格子に覆われているようで、部屋の角が九十度ではなく、すこし丸みを帯びているようだ。
音が聞こえる。
興奮というより怖がっているような呼吸の乱れと、震える声。
まるでホラー映画で、殺人鬼やモンスターに追いかけられて怯える登場人物のように、その荒い呼吸を聞いているだけで、心臓がバクバクする。
やっぱり見るんじゃなかったかな、身体が寒いよ。
「顔見てわかる?」
「うーん、もうちょっと顔を上げてくれないとわからないよ」
頭を下にしているために顔がわからないんだ。
やがてびくっと身体を震わせたと思うと、突如顔を上げて大きな奇声を上げる。
それに驚き、思わず身体を仰け反りながら驚くあたしは、凄まじい跳躍力で勢いを付けて飛んできて、テレビでアップになったその顔に、またもや仰け反った。
このままなら、向こうからこちらに出てきそうな雰囲気だったからだ。
カメラに顔を近づけたらしい、その顔は――。
「隆くんだ……」
どう見ても、シャイで可愛かったあの隆くんと同じ顔の作りをしていて、この姿に泣きたくなってくる。
カメラが揺れてガンガンと音がするのは、鉄格子でも手で叩いているのだろうか。