この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
エリュシオンでささやいて
第10章 Changing Voice
隆くんはなにかを歌い出す。
そして、突如口を大きくあけて、カメラの前で突き出した舌は――。
「スプリットタン……」
腕組をした須王が呟いた。
隆くんの舌は先端から真ん中くらいまで裂けて、ちろちろと動く蛇の二枚舌のように動いていた。隆くんは、ふたつの舌をくねくねと別々の生き物のように動かしたり丸めたりし始めた。それは不思議というより、あまりにも異様でおぞましく思えるくらいに不気味な光景で。
「舌の奥側の表面になにか書かれてあるな」
須王はリモコンで一時停止をさせ、目を懲らして言った。
「……〝Elysion〟」
一気にざわっと鳥肌が立って総毛立ち、確かにスプラッターではないホラーのような得体の知れない恐怖感が湧き上がる。
須王と棗くんの組織が、ひたひたと忍び寄ってきている。
確実に、残虐な意図を持って。
棗くんがリモコンで停止する。
「須王、感想」
棗くんの問いに、須王は苛立たしげに前髪を掻き上げるようにして言った。
「両舌、だな。牧田や谷口と同じだ」
あたしの頭の中に、スマホで調べた十悪と十善戒を思い出す。
そうだ、確かあれを見てあたしは、隆くんであったのなら、不両舌――他人の仲を裂くこと勿れ、というところに引っかかるなと思ったんだ。
両舌……だから二枚舌にしたんだろうか。
あまりに短絡で、だけどわかりやすいインパクト。