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エリュシオンでささやいて
第10章 Changing Voice
 
 
 隆くんは今のあの姿になるほどの恐怖を与えられ、その結果が精神病院に入れられるものになったのだろうと思えば、未来ある隆くんが可哀想でたまらない。確かに彼はあたしと女帝の仲を引き裂こうとした。不和にさせたかったのは、恐らく女帝だけではないだろう。
 だけどこれはやりすぎだって。
 
「音もそうだということは、やはりエリュシオンか」

 隆くんを使うということは、須王や棗くんだけではなく、あたしにもメッセージ性があるように思えるんだ。
 あたしにも――あたしや仲間が、こうなるよと脅されているように。

 須王と棗くんの組織だけの問題ではない。
 確実に、あたしの周囲の人間が狙われている。

 話があるのなら、直接言えばいいじゃない。
 大勢を巻き込んで殺したり傷つけたりしないで。

 隆くんの姿にあたしは今まで以上に、怒りを抑えずにはいられなかった。
 せっかくあたし……隆くんを責めずに離れたのに。

 どうして?
 不和にする任務を失敗したから?

 あたしは湧き出る感情を制御できずに、ぼたぼたと涙を零してしまった。

「なんの権利があって……」

 組織だって、同じ人間で更生されているんでしょう?
 どうしてこう簡単にひとを傷つけて壊すことが出来るの?

 一体、なんの権利があって――。

――うあああああああ!

 その時、あたしの中からあたしの身体を切り裂くように悲鳴が上がったように思えて、視界が揺れた。

 その声は、あたしが絶叫した声だった。

 たくさんの声、たくさんのひと、たくさんの――真紅色。


「柚?」


 そう、鉄の匂いが立ちこめる生臭いその中で、あたしは――。


「おい、柚!?」



 どす、ごろ、ごろ……。


 どこかで、なにかが転がった音がした。

 そうあたしは――、
 それが人間の頭が転がった音だと、認識出来たんだ。
 
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