この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
エリュシオンでささやいて
第10章 Changing Voice
・
・
・
・
どこまでも、白い世界が続いている。
密閉された大きな箱に閉じ込められたあたしは、無慈悲な膨張の色彩に狂いそうになる気持ちを抱えていた。
なにもないから危険もない。
どこまでも停滞が続くこの世界は、平和という退屈な世界。
ここは死後のなにもない楽園、エリュシオンだ――。
無の世界に音楽が聞こえてくる。
透き通るような女の声。
ああ、これは天上の音楽、天使の歌声だ。
それは次第に合唱となるほど複数になった。
一体どこから声が聞こえているのか。
やがて声の正体に気づく。
床にびっしりと詰まっていたのは、たくさんの天使の顔部。
彼女達は頭だけの姿になっても、生きて歌っていた。
ああ、こんなにたくさんいれば、死んでも生き返れるね。
やがてひとつの天使の顔がどろどろと溶けていき、ぽっかりとあいた眼窩から草の芽が生えた。
それはたくさんの天使を養分にしてすくすくと成長していき、枝葉が雄々しい、大きなポプラの木を作った。
たくさんの白い花が咲く。
しかしあたしが触ると、花は次々とあたしの血を吸い取って、毒々しい真紅色となり、柘榴の実になっていく。
天使の血肉で育った木に、あたしの血で育った真っ赤な柘榴。
それはやがて、新たな天使を構成する血肉となり、天使の顔を象っていく。
生命の循環。
生と死の繰り返しを経て、この世界は楽園となる。
だからあたしは――。
すべての天使の顔を手でもいで、下に落とした。
生まれたものは殺さないといけない。
殺さなければ、天使は生きられない。
枝に生えた首からきれいにもぐと、天使は恍惚な表情を浮かべて歌うから……あたしは嬉しくなって、天使を足元に転がしていった。
沢山、天使が実れと思いながら。