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エリュシオンでささやいて
第10章 Changing Voice
 


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 どこまでも、白い世界が続いている。

 密閉された大きな箱に閉じ込められたあたしは、無慈悲な膨張の色彩に狂いそうになる気持ちを抱えていた。

 なにもないから危険もない。
 どこまでも停滞が続くこの世界は、平和という退屈な世界。

 ここは死後のなにもない楽園、エリュシオンだ――。

 無の世界に音楽が聞こえてくる。

 透き通るような女の声。
 ああ、これは天上の音楽、天使の歌声だ。

 それは次第に合唱となるほど複数になった。

 一体どこから声が聞こえているのか。

 やがて声の正体に気づく。

 床にびっしりと詰まっていたのは、たくさんの天使の顔部。
 彼女達は頭だけの姿になっても、生きて歌っていた。

 ああ、こんなにたくさんいれば、死んでも生き返れるね。

 やがてひとつの天使の顔がどろどろと溶けていき、ぽっかりとあいた眼窩から草の芽が生えた。

 それはたくさんの天使を養分にしてすくすくと成長していき、枝葉が雄々しい、大きなポプラの木を作った。

 たくさんの白い花が咲く。
 しかしあたしが触ると、花は次々とあたしの血を吸い取って、毒々しい真紅色となり、柘榴の実になっていく。
 
 天使の血肉で育った木に、あたしの血で育った真っ赤な柘榴。
 それはやがて、新たな天使を構成する血肉となり、天使の顔を象っていく。

 生命の循環。
 生と死の繰り返しを経て、この世界は楽園となる。

 だからあたしは――。
 すべての天使の顔を手でもいで、下に落とした。

 生まれたものは殺さないといけない。
 殺さなければ、天使は生きられない。

 枝に生えた首からきれいにもぐと、天使は恍惚な表情を浮かべて歌うから……あたしは嬉しくなって、天使を足元に転がしていった。
 
 沢山、天使が実れと思いながら。

 
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