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エリュシオンでささやいて
第10章 Changing Voice
「夢だけではなく、美保ちゃんの家でそう思ったの」
「……どういうことだ?」
「慣れきっている気がする。美保ちゃん達の残虐な姿同等の、たとえば天使の頭が落ちるのを、あたしは過去見たのかもしれない」
「なぁ、柚」
須王はあたしの後頭部を撫でながら言う。
「俺や棗ならともなく、頭が落ちるのを見ただけで、九年後も見慣れるはずはねぇぞ。だったらトラウマになるだろう」
「うん、だから思い出せなかったのかなって」
「だが、今のお前は落ち着きすぎじゃね?」
「だったら何度も見ていたのかな、天使の頭が落ちるのを」
そう言ってから、あたしは笑った。
「ありえないよね、だったら殺されても生き返るということになる。少なくともあたしが見慣れるくらいは」
だけど、やけに心臓がドキドキするのはなぜだろう。
ありえないよ。
人間、頭を落とされて再生するはずがない。
そんなのが出来るのなら、ご都合主義のファンタジーやホラーだ。
現実には絶対ありえるはずがない。
「天使が生き返るかは今はおいておいて、お前が天使の頭が落ちるのを見ているのだとすれば、お前は天使が拉致られるのを見ていたわけではなく、お前も一緒に拉致られたということになるな」
つまり、天使を拉致されたことを見ていたという長年の記憶は偽りで。
「うん。まったく記憶はないけれど、そうであったのなら、あたしも拉致られたのかもしれない。須王のいた、エリュシオンに」
時折見る凄まじい悪夢がもしかしたら、記憶の断片を含んでいるかもしれない。
「だけど俺達はもう潰してる。九年前にはもうないんだよ、組織は」
「それでも……天使はいたわ。ちゃんと掟の歌を歌っていた。だから九年前にはあったのだと、そう考えられない? 継続なのか、新生なのかはわからないけど、今も動いているのなら」
須王はあたしの背中を撫でて、ため息をついた。