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エリュシオンでささやいて
第3章 Dear Voice
よりによって笑点!!
早瀬先生、ふたりしか登録していないプライベート用のスマホの着信に、なんで笑点を選ぶ!
早瀬は応答せず、電源自体を切ってしまったようだ。
すると今度は、バイブにしてあるらしい仕事用のスマホにかかってきたらしい。
「ああ、うるせっ!!」
「緊急かもしれないから、出てあげ……あはははは」
早瀬は乱暴に運転席を空けて、外で話し始めた。
かなり怒り心頭のご様子。
声が聞こえた。
「棗! お前三ヶ月も連絡寄越さねぇで、なんで今!! よりによってなんで覚悟を決めた今、電話してくんだよ!! 俺……え? し、仕事中だよ!! つーか、俺の着メロを勝手に変えるのやめろよ、なんなんだよ、あれは!!」
どうやら電話の主は、あたしの同級生だったらしい棗くんからのようだ。
まるで思い出せないけど(思い出したくもない)、絶対早瀬にアンマッチだから選んだのだろう笑点、いやいやお茶目で愉快な奴だな、棗くん。
すごく笑わせて貰ったよ、ありがとう同級生らしい棗くん。
「はあああ!? GPS……お前俺の電話にGPS仕込んだのか!? てへじゃねぇよ!」
……愛されてるねぇ、早瀬くん。
「し、仕事だと言ってるだろ!? 来るなよ、来るんじゃねぇぞ!! 俺は横浜の赤レンガになどいねぇからな!!」
目の前、思い切り赤レンガだけれどね。
それに100%仕事に来てるのに、どうしてどもるんだろう。
「切るぞ、これから打ち合わせだから電源から切るからな!!」
可哀想に棗くん、早瀬ともうお話出来ないのか。
しかしいつも取り澄ました早瀬が、ここまで砕けて乱暴にも思える物言いをするとは、かなり心を許している相手だと見た。
……まあ、気苦労も一度や二度の話ではないみたいだけれど。
「……会場に行くぞ」
早瀬は疲れ切った表情で、どこか不機嫌にあたしのドアを開けた。