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エリュシオンでささやいて
第10章 Changing Voice
エリュシオンにはひとがいなくなりすぎた。
盗聴器もなくなり、正しく再生が出来るはずの会社に、働きたいという社員が日々減じていく。
彼らは美保ちゃん達のような凄惨な場面を見ていないのに、仕事が大変になったからという理由で簡単に楽な方に逃げに入る。
ここまでエリュシオンは腐りきっていたとは。
「ねぇ、通常業務どうしよう……」
須王に相談すると、放っておけと返る。
「でも、顧客がいるんだし……」
「社長が動くだろう。今まで、膿み出しと称してなにもしなかった奴だ。膿みを出したのなら、その後も責任とればいいさ。無計画ではないだろう、さすがに」
「それでもひとがいなさすぎじゃない? 食い止めなければエリュシオンは……」
「お前のエリュシオンは俺が潰さねぇ。俺の音楽人生にかけて」
そう言われれば、あたしは黙り込むしか出来なかった。
エリュシオンを潰さないのがいいのか、潰した方がいいのか、あたしにはどちらがいいと判断は出来なかったんだ。
社長がなにを考えているのかわからない。
膿み出しをした清潔な場所で、なにをしたいのか。
毎日来る社長と、陰鬱な顔をした残った僅かな社員達。
営業までもが辞職をしていく。
頑張ろうねなどと声をかけられる雰囲気でもなく。
電話が鳴る度にため息をつく社員を見ていると、どうにかしたいのに、なにも出来ない自分の無力さが口惜しい。
数日後、社長は人員を補充した。
てきぱきと動く有能な男性十人。
うち三人は営業に、七人は二階の企画部に配属されたが、仕事は早いが、不気味なほど能面顔で、次第にエリュシオンが不気味さで伸縮されていく気がして、ぞくりとする。
あたしはただ、音楽を愛する社員とエリュシオンを守りたいだけなのに、社長が選んだ基準は仕事の出来であり、やはり社長とは方向性が違うと思わずにはいられなかった。