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エリュシオンでささやいて
第10章 Changing Voice
「柚、行くよ」
「あ、はい」
須王がアウディで連れ出したのは、上野公園だった。
「なぜ、上野公園?」
「路上ライブを見る。裕貴が言っていたボーカルを見たい」
「あ、凄い声量の裕貴くんと同い年の少年だっけ」
「ああ。いい声だといいがな」
基本東京都の公園や施設で路上ライブをする場合、都の申請が必要になる。 許可がなされたものは、公式のホームページなどに掲載されるために、その日時が裕貴くんの耳に伝わっていたらしい。
「だけど平日では……」
そう思いながら、動物園くらいしか思い浮かばない上野公園を歩いていくと、ひとだかりが出来ていた。
「あそこかしら」
「待って!」
あたしのストップに女帝の須王もおかしな顔をする。
「どうした?」
「いや、なんだか……嫌な予感がして」
まるであそこに行ってはいけないような。
「ちょっと覗くくらいなら大丈夫じゃない?」
なんだろう、ざわついた心はなにを予感しているの?
人が集まる場所はみう少しなのに、あたしの足は動かなくて。
だけど心配そうに見ているふたりの手前、いい大人がびくびく怯えているわけにもいかなくて。
「……行こう。行ってみよう」
……なにがあるのだろうか、あの人だかりに。