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エリュシオンでささやいて
第10章 Changing Voice
「ねぇ、自由が丘の時みたいにみたいにSNSに上げられて黒服が来たら……」
「その時は俺が守ってやる」
「あなたの強さはわかっていますけれども、守る守らないの問題ではなくですね、わざわざ地雷踏むような行いをしなくてもいいのではと言いたいわけですよ」
「はは、なんだよそれ」
須王は鼻で笑い、気にせず歩く。
「ねぇってば、離れて歩こうよ。視線が……」
「この先、俺の隣を歩くのはお前だけだ。今のうちから慣れとけ」
「そ、そんな……」
周囲からの奇異や好奇の眼差しが、突き刺さる。
ああ、皆さま。
モグラを連れた、王様のお散歩です。
あたし、王様のペットなんです。
そういうオーラを出しているのに、王様に手を繋がれただけで特別な女になってしまうのか、ひそひそ声と視線が突き刺さってきて痛い。
「ほら、着いた」
だけどそのおかげで、あんなに足を進められなかった場所が目の前だ。
須王が人だかりに先に身を入れ、安全を確認してあたしを引っ張るようにして引き寄せる。
それはパフォーマンスみたいだった。
丸い赤鼻をして化粧をしたピエロの格好をした道化師が、手にしていた肉包丁を、椅子に座って目を瞑っている少女の首に宛て、左から右へと動かした。
首に見える横一文字の真紅の線。
あたしの中で、なにかが警鐘のようにけたたましくなっている。
道化師が少女の頭をポンと片手で叩くと、首がずるりとずれて地面に転げ落ちた。
悲鳴が起こる中、ピエロは口笛を吹きながら、地面に転がった少女の頭を、頭のない少女の膝の上に乗せ、少女の両手を頭上と首に添えて、正面を向くように抱えさせた。
すると、少女の目がぱちっと開いて微笑んだんだ。
完全にホラーの世界。
なんで、生きているの!?
ちかちか、記憶がざらついている。
頭は唇を動かし、歌を歌った。
それは――。
「瞋恚だ……この歌は」
ちかちか。
ざらついた記憶の向こうが、ほんの少し見えてくる。
ああ……、あれは。
「天使の模倣……」
天使の頭が落ちるあの状況を、あたしは〝夢〟で見ている。
ちかちかと依然閃光が散る中で、黒服の男がそこにいたような、曖昧だけれども記憶の残像が存在していることを感じていた。