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エリュシオンでささやいて
第3章 Dear Voice
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赤レンガパークは、赤レンガの建物の真横、海沿いに南北に延びるスペースで行われる。
入場の際に係員さんが名刺の提示を求め、あたしと早瀬が名刺を渡せば、早瀬の名刺を見ただけで、係員さんはすぐに中に入れてくれて、パンフレットが渡された。
同じ会社にいるのにこの差別!
ちょっとくらいあたしの名刺にも目を通してくれればいいのに、早瀬の連れだということで中に通されるなんて! 角が折れた名刺渡せばよかった!
ぷんぷんすれば、眼鏡姿のままの早瀬が笑って人差し指で、自分の頭をトントンして見せる。
〝頭(能力)の差〟
そう言われた気がして、さらにぷんぷん怒ってそのまま屋外を歩いていた時、ドラムの音が聞こえ始めた。
足でペダルを踏んで音を出すバスドラ(ム)がズンズンと一定のリズムを刻み始め、やがて、アタック感の強い硬質でシャープなスネア(ドラム)の音が鳴れば、キュイーンと音をたてて、ざらついて歪みある低音のベースがドラムのリズムに音程を与える。
「Overdrive(オーバードライブ)、GAIN効き過ぎ」
早瀬がぼそりと呟いた。
ベースにも音色を歪ませるエフェクターという小さな機材があり、「Overdrive」とはエフェクターの中のひとつだ。
音量つまみしかないオーディオアンプで音量を最大限にすることで、音が割れたような歪み効果が出る。その効果をアンプに頼ればアンプの故障原因ともなるので、電圧制御された「オーバードライブ(過負荷)」というエフェクターが出来たとか。
GAINとはオーバードライブ効果を増幅させるもので、あたしの耳には、地獄で亡者が濁点の低い悲鳴を上げているような、歪みきったベースの低音が聞こえている。
赤レンガパークで開催されている音楽イベントは、一般向けの公開イベントというよりは、業界人へのアピールイベントのようなものだと、素っ気なく早瀬は言った。
参加者は大手レコード会社からの招待制。デモではなく生で、ステージに立った状態を見極めているらしい。