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エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice
「ええ。転がった時、首の切り口に骨と血肉は見えるけれど、大体あんな程度の肉包丁で頭は落ちないわ。骨をごりごりと切断しなければならない。どう見ても、剣の達人には見えないし」
棗くん、冷静すぎてやけにリアルだ。
「ああ。それに包丁を引く腕がぶれているよな。あれなら無理だ」
「そうよね。せいぜい切れて表皮よ。切断は無理」
……同じものを見ていたはずなのに、ふたりにかかれば、この世にはおかしなことなどないように解説されてしまいそう。
ホラーもお化け屋敷も、きっとこのふたりは動じない。
「よく見れば、首の切り口が雑だな。ん……なにか出てる」
「なにか機械でも埋め込んでいるんじゃないかしら。あれは細いケーブルよ。どう見ても、血管とは思えないわね」
「となると、ピエロが機械を動かすところが映っていてもいいものだが」
「今のところ、怪しい素振りはないわね」
「機械仕掛けの頭か。そう思ってよく見ると、似せてはいるが雑だな」
機械仕掛けだと結論づけられた顔は、目を見開いて歌い出す。
「……随分と悪趣味な曲を歌わせるわね」
「ストップ」
須王の声で、裕貴くんが動画を一時停止する。
「どうしたんだ、須王さん」
「ピエロの視線が何度も一点で定まる」
そして須王は立ち上がって、斜め左の部分を指さした。
「この位置……」
須王が裕貴くんからリモコンを預かり、ゆっくり再生する。
須王が指摘した位置から出てきたのは、
「HARUKAじゃん!!」
アリアを歌を歌い続ける少年――。
「HARUKAだよ、凄い高い声から低い声まで出せる、凄い声量だっただろう? これでインディーズなんてすごいんだよ」
あたしと須王と女帝と顔を見合わせた。
「HARUKAはひとを驚かすのが好きだと、どこかで聞いたことがあるよ。そうか、このピエロも演出のひとつだよ」
そう考えると、落ちた頭が瞋恚の歌を歌う演出を企てたのは、少年ということ?
「HARUKA、いつも顔を隠しているのに、お面とかつけてないの珍しい。どれどれお顔を拝見……」
場面は、あたしに語りかけた時。
そこで一時停止させた裕貴くんは、眉間に皺を寄せ、そして頭を少し傾けたり、角度を帰るようにして画面の中のHARUKAを見て、固まった。