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エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice
裕貴くんは真っ青になりながら、自分のスマホでどこかに電話をかけた。
「もしもし、俺。あのさ、母ちゃん。遥、退院したとか聞いてる? え、聞いてない? それと変なこと聞くけど、遥って双子の兄弟……いないよな。うん、俺も一人っ子だと聞いてるし、大体幼稚園からの付き合いだものな。うん、うん……わかってるって。今度生須王を写メしてきてやるって。今は駄目だ……電話は駄目! じゃあな」
……裕貴くんの話を聞いていただけで、電話の向こう側にいるお母さんがなにを言っていたのかよくわかる。とてもわかりやすい。
「おいこら裕貴。勝手に俺を売るなよ」
須王は苦笑して言った。
「須王さん、ごめん。ああでも言わなきゃ、うちのハイエナ軍団言うこと聞いてくれないんだよ。とりあえず現在進行形の接触は、命賭けで止めているから。まるで飢えたハイエナか興奮した闘牛相手にしているようだよ」
「がははははは。俺、その気持ちわかるわ」
ほとほと疲れ切った裕貴くんに、小林さんがばしんばしんと大きな手で裕貴くんの肩を叩いて笑った。
そうだよね、須王は雲上人だものね。
こうやって話して触れるのは、奇跡みたいだものね。
「……で、遥が退院したということは、遥の母ちゃんと仲がいい俺の母ちゃんも聞いてないし、遥とそっくりな兄弟もいない」
「ということは……」
腕組をしている棗くんが、顎に細い指を添えながら目を細めて言った。
「このHARUKAと思われる少年は、病院からこっそり抜け出した裕貴の幼なじみの遥クンか、遥クンそっくりなアカの他人か、ということになるわね」
「俺、明日遥の病室に行ってみるよ。ちゃんと本人がいるのかどうか。明日の金曜日は創立記念日で学校休みだし」
「OK。じゃあ私運転するわ。須王と上原サンもくるでしょう?」
頷くあたし達の横で、女帝も言った。
「私もあの少年を見ていたし、本物かどうか確認したい」
「大勢の目で確認した方がいいかもな。……小林、お前明日留守番頼むな。お前は一刻も早く怪我を治せ」
須王の言葉に、小林さんは苦笑した。
「ああ、そうするよ。俺の修理から戻ったばかりのランクル、使っていいぞ。大人数の移動なら、あっちがいいだろう」
そして小林さんは、ソファに置いてある上着から車の鍵を取り出して、棗くんに渡した。