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エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice
女帝と作った夕食は、天ぷらそば。
棗くんと女帝と裕貴くんが近くにある二十四時間営業のスーパーに行って、活きのいい大海老を十本とおそばを買ってきてくれた。
裕貴くんと棗くんは本当の姉弟のように仲が良く、棗くんはそこそこ女帝とも交流しているようだ。とは言っても、やはり素っ気はないけれど、最初に比べたら断然よくなったように思える。
「……ちょっと、外の風にあたってくる」
食後、須王がぼんやりとした顔つきで外に出た。
あたしは、前に似たようなことがあったことを思い出す。
須王は、なにか精神的に参っているのだろうか。
夜風は寒い季節だ。
またあたしは、須王の背広を持って外に出る。
やはり案の定、須王は黒い車に寄りかかるようにして、丸い月を見上げながらタバコを吸っていた。
青白い光を浴びた須王の口から、白煙が立ち上る。
まるで須王の中にあるなにかが月に還るような……かぐや姫のようにいつかはあの幻想的な満月に帰ってしまうのではないかという不安から、須王のタバコを取り上げてしまった。
「ああ、見つかっちまったか」
笑いながら、須王はあたしとは反対側を向いて細く息を出す。
あたしは背広を押しつけながら、タバコを吸えば須王の気持ちがわかるのだろうかと、月を見上げながら取り上げたタバコを吸って数秒、お約束のようにゲホゲホとむせ込んだ。
「ちょ、お前なにしてんだよ!」
「いや、少しゲホゲホっ、うの気持ちがゲホゲホゲホゲホっ」
須王が呆れ返りながら、持ち主に戻ったタバコを足で踏みつけて火を消しながら、あたしの背中を撫でる。
「ごめ……ゲホゲホっ」
生まれて初めて吸ったタバコは、美味しくなかった。
なんで喫煙者は、美味しそうに吸ってるの?
「大丈夫か?」
「う……ごめん」
澄んだ夜風を深呼吸で肺の隅々にまで送り込んで、ようやく綺麗な呼吸が出来るようになった。