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エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice
「全く、本当に目が離せないな、お前は」
笑う須王のほうこそ、目が離せないほど儚げで。
どの口が言うのよと言ってやりたいけれど、それでも彼が伸ばした片手であたしの肩を引き寄せて、月を見上げる横顔があまりにも美しすぎて、あたしは息を飲んだ。
「明日の満月は、ブルームーンと呼ばれるらしい」
「ブルームーン……。月が青く見えるから、ブルームーンって言うの?」
「一ヶ月に二度巡る満月のことを言うらしいが、一説によると、大気中の塵の影響で月が青く見えることをブルームーンとも呼んでいたらしい」
「へぇ……」
一ヶ月に二度巡る満月。
今月はなんだかお得感のある月だったんだ。
「昔は不吉なものと言われていたらしいが、今では稀なブルームーンを見ると幸せになれるとも言われている」
須王はあたしの手を握り、依然月を見上げたままぼそりと言う。
「結婚、するか」
それがあまりにも自然にこぼれ落ちたから、あたしは驚いて須王を見た。
須王は青白い光を浴びて、視線だけをあたしに落とす。
「なんだよ、その驚きよう」
「……なにかあったの?」
「ねぇよ」
「じゃあなんで……」
「駄目? 俺がお前と結婚したいと言ったら」
風がダークブルーの須王の髪先を揺らす。
寂しげな瞳が揺れた。
「駄目、じゃないけど……」
「けど?」
「……今、したくてそういうことを言っているんじゃないんでしょう? なに、どんな不安があるの?」
すると須王は力なくふっと笑う。
「どうしてそう思う?」
「……ブランクはあるけど、付き合い長いあたしをなめるな!」
と、ちょっと威張って言ってみてから、ごにょごにょと言った。
「棗くんなら、須王がなにを悩んでいるのかわかるんだろうけど……」