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エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice
「なんでそこで逃げ腰になるよ、お前。言い当ててみろよ」
「いやだから、あたしは棗くんのような超能力はないので……」
「なんだよそれ」
笑う須王はあたしの頭を胸に抱えるようにして抱きしめると、あたしの頭の上に顎を置いて言った。
「お前を、幸せにしてやりてぇなって。お前今不安でたまらねぇだろ。わざと明るく笑ってはいるが、お前の記憶の中なにが正しいのかお前自身、わからねぇんだから不安にもなるだろう、俺でも」
「……っ」
「曖昧模糊の中で、これだけは今も昔も変わらないから安心しろと、俺がはっきりとお前に差し出せるものがあるとすれば、この身体とお前が好きだという想いだけだ。だったら、結婚という形をとれば、お前も安心出来るかなと思って。俺がお前の、決して変わることのない帰る場所だと思えるだろう? どんなに迷って遠回りしても、出口は俺のところだ」
「……あたしは」
「ん?」
聞き返す須王の声が甘い。
「もし須王と結婚するのなら、須王の帰る場所になりたいの。あたしのことはいいの。あたし自身より、須王が大切だから」
「……っ」
「確かに今は不安だよ? 記憶がどこまで正しいのかわからないし、見知った人がおかしな結末を迎えている。誰がどうしてこんな残虐な形で、あたしを狙っているのかわからないで、不安だよ? だけどあたしには、須王がいるじゃない。須王に突き放された九年前の悪夢はもうこの先は起きないでしょう? あたしの傍にいてくれるって言ってくれたでしょう?」
「柚……」
「こうやって、あたしのことで心を痛めてくれる須王がいるのなら、あたしは頑張って前を向いていけるの。怖いけど、前に進もうと思えるの。あたしはひとりじゃないと思えるから」
須王はあたしの後頭部を大きな手で撫でた。
「だからあたしも、須王にそう思って貰いたいの。あたしがいるから前を向けれるように。どんなに辛い過去の片鱗が現われても、昔と今は違うと思えるような力を、あたしがあげたいの」
「………」
「あたしが、須王の帰る場所になりたいの」