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エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice
しばらく須王はなにも言わなかった。
そしてあたしの頭の上で頬ずりをすると言った。
「なんなの、お前。その破壊力ある口説き文句」
「は!?」
「俺がお前に結婚しようと言ったより、強烈じゃねぇかよ。お前が俺の帰る場所になってくれるなんて……俺史上、お前に好きと言って貰えたくらいの、最高の言葉なんだけど」
「そ、そう……?」
「はぁ……。やべぇな」
須王があたしの頭の上でもぞもぞする。
「すげぇ嬉しくて、顔が緩む。なんなんだよ、俺をどうしたいんだよ、お前。ああ、顔が熱くてたまんねぇ!」
真っ赤になって緩んだ超絶美形の顔だと?
「え、見たい」
「やだ」
伸びをしようとしたが、須王が身体全体でホールドにかかる。
「見たい。見せて? 王様の緩んだ顔なんてレアものじゃない」
「駄目だって。お前でも見せねぇよ」
抱擁という名で動きを制されて、須王の顔を見ることは出来ない。
だけど――。
「……乗り切ろうな」
落とされた言葉は真剣で。
「うん」
あたしも真面目に返事をした。
「乗り切ったら……もう一回言うから。お前にきちんとプロポーズする」
「……っ」
「どうしようもないくらい、お前が好きだ。胸の真ん中、焦げそうなほど」
あたしは心臓が苦しくて、須王の服をぎゅっと掴んだ。
そして――。
「くしゅん!」
「お前……なんでここでぶった切る」
「ごめん。くしゅんっ」
「ああ、冷えちまったかな。ちょっと、ドライブ行くか。車に乗ってろ」
「え、戻らないの?」
「ああ。お前の口説き文句にやられちまったから、戻れねぇ。お前とふたりきりでいさせて? やばいくらいにお前を甘やかしてぇんだ」
ぼっと顔が赤くなる。
「も、もう甘やかされているよ?」
「俺の愛、なめんなよ?」
笑いながら須王はあたしを黒い車の助手席に押し込むと、運転席に座りエンジンをかけて、暖房を入れてくれた。
そして、こんなに近いところにいるのに、プライベート用のスマホを手にして、御殿の中の棗くんにLINEをしたようだ。
「久しぶりのデートだ」
そう笑う須王はとても嬉しそうで、あたしも破顔した。
シフトレバーが倒され、要塞から車は出る。
もの悲しい満月が照らし出す夜空の元を、闇色の車は走った。