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エリュシオンでささやいて
第3章 Dear Voice
 
 
 パンフレットを見れば、演者は三十五名。バンドありソロあり、歌ではなくて楽器演奏もあり、中々なレパートリー。

 しかもコンテストになっているようで、パンフレットの裏側には名だたる大手レコード会社が並び、そのうち五名が審査員をしているようだ。

 今までの実績を見れば、コンテストに上位入賞さえすれば、ほぼ間違いなく専属契約が出来るらしい。上位でなくとも、たくさんの音楽会社から見に来ているから、もしかすると目が留まればスカウトされることも夢ではない。

 プロデビューを目指すインディーズならば、憧れの登竜門のひとつとなるだろう。

 ここに招待されるためには、成績を残していないといけないため、このイベント出場自体が狭き門のようにも思える。

 たくさんの椅子には、一般客らしい人達はおらず(名刺で判定か)、メモをとったり話していたり、絶対音楽を純粋に聞きに来たわけじゃないよね、と思われる業界人が座っていた。

 あたしはスカウトはしたことがないし、あたしの仕事は発掘した後の人材をどう育成して、レコード会社やプロダクションにお勧めするか、ということで、言わば一種の仲介業。

 基本内勤のあたしは、こうした発掘オーディションを見るのは、前回の日比谷野音が初めての素人丸出しだけれど、知る人は知るのこのイベント開催。

 音楽通が集まるとなれば、早瀬を見ただけで飛んで来る人間もいるわけで。

 知らなくても、無駄に目立ちすぎる美貌。
 いかに眼鏡をかけようが、それすら彼の美を違った形で昇華させる、イケメン必須のアイテムとさせてしまうし、自分の素性を隠そうとしているようにも見えないし。

 ダークブルーのコートを羽織って、偉そうに闊歩する様は、本当にどこかの王様。冥王ハデス様としか見えないしね。

「早瀬さん、お久しぶりです」
「早瀬さん!」
「早瀬さん」

 あっという間に、あたしと早瀬の間に人の海。
 あたしは、ぽつんとしている。

 ……まあいいけどさ。
 向こうは超有名人モテモテ音楽家なのはわかっているし。
 
 早瀬と一緒にいたあたしは完全眼中外、蚊帳の外。
 太陽神アポロンと化した冥王の光が強すぎて、あたしが霞んで見えていないとか?

 やだあ、ハデスに群がっているの、たくさんのモグモグ?
 モグモグ目が劣化しているから、あたしが見えないの仕方がないよね。
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