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エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice
そんなこんなで、須王の色仕掛け(?)に辟易しつつ、待ち受けていたのはたくさんのお魚さん達。
魚と言えば魚屋しか見たことがないあたしは、童心に返り純粋に喜んだ。
「お、マグロか? 美味そうだな」
「水族館でなにを言っちゃってるの! 可愛いと言いなさいよ!」
「あはははは」
大きな水槽を悠々と泳ぐ魚達。
人間の観賞用として閉じ込められたことに対して、思うところはあるのだろうか。
それとも小さな魚と大きな魚が渾然一体とした、ある種カオスなこの空間は、彼らにとって心強いものであるのだろうか。
なんだかね、泣けてくるんだ。
本当は大きな海の中で泳いでいたかっただろうにと思えば。
一部の人間の意志で、死ぬまで檻の生活をしないといけないんだから。
……須王が体験した組織もそうだ。
誰だかわからない一部の意志により、須王や棗くんの尊厳は失われた。
それでも一握の希望で、檻を破って外に出たというのに、違う檻が今も須王と棗くんを追い詰めている。
不幸にも〝選ばれてしまった〟ものに、最高の幸せがあって欲しい。
……心からそう思う。
次に踏み入れたのは、照明が落とされた暗い室内。
その中に複数の小さな水槽が、LEDに照らされるようにして置かれてある。
須王は眼鏡を外したようだ。
「うわー……」
「クラゲだな」
中でも半透明の身体を持つクラゲが、まるで蛍光塗料でもつけたかのように淡く発光してゆらゆらと動く様は幻想的で、思わず魅入ってしまう。
興奮してきゃあきゃあ騒ぐあたしが、ひとつのクラゲを指さして須王を見上げると、須王は水槽ではなく、あたしを見ていた。
仄かな光を浴びながら、僅かに細めた優しい目でじっと見つめている。
「な、なに……?」
「なんでもねぇよ」
そんな目で見ないでよ。
愛おしくて仕方がないという目で。