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エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice
 

 本当に複数のひとの声が大きくなってきて、慌てたあたしは背中の甘えんぼ須王を背負いながら、皆から見えない暗がりによいしょよいしょと移動する。
 暗がりを見つけて動くのは、モグモグの得意技だ。

「……なに、お前暗いところで俺になにをして貰いたいわけ?」

「ち、違う! あなたは有名人だから、こんな冴えない女と一緒にいるのを見られたら、もう本当に音楽人生絶たれちゃうから」

 すると須王は耳に囁いてくる。

「なにが冴えねぇだよ。俺俳優でもねぇけど、だったら記者会見でもして世間に知らしめる? この上原柚は、俺に音楽をやるきっかけを与えてくれたひとで、俺が結婚して人生縛りたいほど、世界一可愛くて仕方がねぇ俺の恋人だって。俺は両想いになったことに浮かれまくってますって」

「な、なななな!」

 顔が沸騰して、湯気が出てきそうだ。

「美しき俺の女神(ミューズ)――」

「ひぃやぁぁぁぁぁ!」

 その単語に全身ざわっと総毛立ったあたしは、須王をぽいと投げ捨てて奇声を上げて走る。が、須王を残してひとりで動いてはいけないという言いつけを思い出して走って戻って来ると、須王の服の裾を掴んでちょっと距離を開け、悪寒の不快さにぐすぐすと鼻を鳴らす。

 須王は思いきり声を上げて大爆笑をしていたのに、あたしの怪しい動きの方が挙動不審で目立ち過ぎて、またもや須王は正体を知られずにすんだらしい。
 なんだか悔しいけどほっとして……複雑極まりない。

「なんで泣くんだよ。お前」

 目尻から涙を流して、よしよしとあたしの頭をぽんぽんする。

「だって……」

「お前外国行けねぇぞ? あっちの男達の愛の表現はすげぇんだからな」

「あたし無理。無理だから!」

「わかった、わかった。あはははは。お前はストレートだと真っ赤になってまだ耐えるのに、芝居がかると途端に駄目だ。うん、今度から俺も婉曲しねぇで、ストレートでいかせて貰うわ」

「普通でいいから、普通で!!」

「ははははは」

 賑やかに進んだのは照明が明るい場所で、須王は咄嗟に眼鏡をかけた。
 ジャングルを模した景観の中に、イグアナら爬虫類とか、カピバラがいる。
 
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