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エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice
「カピバラ!? なんで水族館にカピバラが!? カピバラさーん」
可愛い顔をしているのに、どうしてもさん付にしてしまうのは、某キャラクターの影響だ。カピバラは、どこまでもカピバラさんなんだ。
ふと、宮坂専務の世間話を思い出した。
カピバラって逃げ足がものすごく早いんだっけ。
そう思いながら、カピバラの大きな身体を支える、小さなおみ足を見ながら、本当に早いのかなあと呟くと、須王が笑って言った。
「お前の逃げ足の方が早いって。なにせ『ひぃやぁぁ』だからな。俺、初めて聞いた。そんな声上げて走って逃げる奴」
「~~っ!!」
恥ずかしい。
真っ赤になって無言でぼかすかと須王を叩いて、ぷんぷんと怒りながら次のエリアに行くと、あざらしやオットセイ、ペンギンなどが現われた。
「あ、カワウソちゃんがいる~。おいでおいで~」
「あれがカワウソか」
須王が腕組をして、怪訝な顔をして覗き込んだ。
「え、知らなかったの?」
「ああ。名前だけは聞いていたけど。変な名前だなって。……意外と可愛い顔をしているな。俺また、妖怪海坊主みたいなのかと思ってた」
「なによ、妖怪海坊主って。……そういえば、下のシークレットムーンにカワウソちゃんがいるんだっけ。さらに下には巨大なカピバラさんが」
「……あいつの話はよせ」
ちっ、この和んだ空気に、嫌悪感を薄れさせようとしたけれど失敗か。
それでも宮坂専務の話していた話は、そっぽ向いていても、記憶に残れるくらいにはちゃんと聞いていたわけだ。
思わずふっと口元を綻ばせてしまう。
きっと専務は、こんな風に……可愛げなさそうで実はどこか可愛い須王を知っているからこそ、茶々を入れてくるんだろうけれど。