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エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice
女性は須王の隣に立ち、須王の脇に手を差し込んで勝手に腕を組んだ。
そして須王の肩に顔をつけて、身体の関係がある熱々カップルかのような笑顔を見せて言う。
「早く撮って下さい」
須王は振り解かない。
だけど、目だけはあたしに訊く。
『お前はどうしたい?』
ボタンを押せばきっと女の子も笑顔だろう。
ちょっとボタンを押せばいいだけだ。
「写真すら撮ってくれないケチな男」だと、須王の評判をあたしが落としてはいけない。
あたしが女性をぞんざいに扱えば、一緒にいた須王に風評被害が及ぶかもしれない。今はSNSが蔓延している時代、どう作用するかわからない。
だけど。
だけど――。
「ごめんなさい。撮れません」
その瞬間、須王が表情を緩めた気がした。
「どうして? あなたは早瀬須王がいちゃつくのを許して貰えたんでしょう? 私はただ写真を撮るだけなんですよ?」
「……それでもごめんなさい。無理です」
恋人だと言えないあたしは、ただ平謝りをする。
「じゃあ宏孝、撮って」
彼女は彼氏を呼ぶ。
その豊満な胸を須王の脇腹にぐいぐいと押しつけながら、須王と手を握ろうとしている。
いらいら。
「彼から離れて下さい」
あたしは腕を組んだままの彼女を引き剥がして、須王をあたしの背中に隠した。隠したと言っても、長身の彼が隠れるはずはないんだけれど。
「彼に触らないで下さい」
無性にいらいらがとまらなかった。
須王のために抑えていたけれど、もう忍耐の限界だ。
「どんな権利があって? たかがファンのひとりが」
「彼はあたしのものです!!」
きっぱりと言ってからはっとした。
「はぁぁぁ!?」
しかし馬鹿にしたような上から目線にまたカッとなってしまう。
須王に触って貰いたくない。
皆の王様だとわかっているけれど、あたしと一緒の時はあたしだけのものであって欲しい。
営業用でもなんでも、あたし以外に優しい顔を向けて欲しくない。