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エリュシオンでささやいて
第3章 Dear Voice
「――っ、――っ!!」
現実逃避していたら早瀬に呼ばれた気がしたけれど、丁度甲高い悲鳴のような音を奏でるギターの音が割って入り、そちらに気を取られた。
ギターのネックで指を動かして高い音を出す「ハーモニクス」という技法。
一番目に演奏することになっているこのバンド、ドラム、ベース、ギターと誰もがアピールするように頑張っちゃっているから、ひとつの曲を演奏するという協調性を感じない。
技術はあるのかもしれないけれど、どの音もばらばらで孤立してしまっている感じだ。
そこに女性ボーカルが現われて、歌声を乗せてきた。
重みのあるバッキングに、可愛い少女のような声が軽すぎて。
これは……アンマッチ過ぎやしないか?
ボーカルの声量はそこそこあるけれど、曲に合うのはシャウト系のパワフルなボーカルの方が似合う気がする。きゃりーぱ○ゅぱみゅのような不思議ちゃん系では、明らかに浮いてしまっている。
超ハードロックのバッキングに、主旋律を奏でるのはピアノの音よりもっと軽い……ハープ(竪琴)、いや、マリンバ(木琴)の音のボーカルのような感じ。
ひと言で言えば、「合わない」。
ボーカルの登場で、さらに音が独立してしまった気がする。
リズムがしっかりしているのに、音が不協和だ。
残念だなあ、もっと音を大事に考えればいいのに。
「自分を見て」ではなく、「自分達を見て」と思っていたのなら、また違う音の集大成になっただろうに。
そんなことを思いながら、あたしは早瀬の存在をすっかり忘れてステージ近くまで、歩いて行った。