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エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice
スマホの向こう側から棗くんの声が聞こえる。
『須王~、帰りにシーバスリーガル17年ものとチータラとお醤油とクレンジングオイル買って来て』
「なんだよ、緊急性がねぇのかよ」
『あら、緊急じゃないと出ないつもりなんて、今なにをしているの?』
棗くん強し。須王がなにも言えない。
「……その一貫性がねぇ注文はなんだ」
『ここに置き去りにされた、全員の要望』
「お前ら、俺をパシリにする気かよ……」
疲れたような声を出す須王の横で、あたしはくふりと笑ってしまった。
一貫性がないとはいえ、きっとシーバスリーガル……ウイスキーは小林さんで、チータラは裕貴くんで、お醤油はきっとあたしとお料理担当の女帝で、クレンジングオイルは棗くんだとわかる。
……棗くん、すっぴんになるんだ。まあそうだよね、お肌スベスベそうだったもの、ちゃんと化粧を落としているからだよね。
すっぴんのお顔を見てみたい。
すっぴんでも美人さんなのは間違いないだろうけれど。
『そりゃあ、パシらせるでしょう。勝手に抜け駆けした罰として』
「抜け駆けって、連絡したじゃねぇかよ、お前に」
『ふふふ、須王。上原サンって人気者なのよ。その人気者を突然かっ攫った時点で抜け駆けなの。ほら、さっさと買ってこないと、増えるわよ。買ってこないと、あんたのパソコンの中のデータ、裕貴にSNSで拡散させるわよ?』
「お前……わかったよ。わかった! 今から一時間以内で帰るから」
『そんな遠くにいるの? 今どこよ』
「……品川」
『だったら一時間もかからないわね。はい、ダッシュ!』
「くそ……」
須王は電話を切って、盛大なため息をついた。
「まだまだ抱き足りねぇのに……。久しぶりに触れたというのに……」
恨みがましそうな目をあたしに向けて、がぶりとあたしの首に噛みついた。
「ちょ……っ」
「どこにいても、上手そうなお前が悪い!」
「な、なにそれ!」
まったく理不尽なことを吐き捨てると、須王は運転席に戻りエンジンをかける。